2020年6月30日をもって、『道路交通法』が新しく改正・施行(しこう)されたことを皆さんご存知ですか?実は、この法の改正に伴(ともな)って、『あおり運転』が明確に定義化されました。これを聞くと「え?定義化ってどういうこと?」ってなりますよね。
そもそも『あおり運転』といえば、2019年に起きた事件を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?しかしながら、あおり運転そのものは、この事件の前から社会問題として取り上げられてきた経緯があるのです。
今回は、法改正のきっかけとなった事件とともに、定義化した『あおり運転』について詳しく解説していきます。自分では起こさないことも大切ですが、知らず知らずに巻き込まれてしまうかもしれない。そんな怖さを知っていただければ幸いです。あおり運転絶対ダメですよ!
あおり運転は東名高速夫婦死亡事件がきっかけで社会問題に

ことの始まりは、2017年6月の東名高速のパーキングエリアで起きた出来事でした。ワゴン車がパーキングエリアを出ようとしましたが、駐車場の通りに止まっていたトラックが邪魔だったため、その運転手に注意をしたのです。
運転手は注意されたことに怒り、執拗(しつよう)にワゴン車を追い回し、車線変更を繰り返しました。最後には本線に車を無理やり止めさせ、ワゴン車に詰め寄ったところを、大型トラックが追突事故を起こしたのです。
この事故で、ワゴン車に乗っていた2名が死亡、加害者を含む4名が重軽傷を負いました。なんと加害者は日頃からこうした『あおり運転』の常習犯でした!今回の事件も「ワゴン車の人に注意され、頭にきてやった」という理不尽な供述(きょうじゅつ)をしたのです。
東名高速夫婦死亡事件の判決
加害者は、『過失運転致傷(ちしょう)罪』で裁判に立ちました。しかしながら、遺族はそれよりも重い罪である『危険運転致死傷罪』を求めたのです。そして、2018年12月に加害者は遺族の求めた罪で、懲役(ちょうえき)18年と判決がおりたのでした。
一般的に相手に傷害を与えた、殺したなどを行なった場合、『傷害罪・殺人罪』が適応されます。しかし、道路交通法では、たとえ相手に傷害を与え、殺してしまったとしても『傷害罪・殺人罪』は適応しないのです。
遺族側が求めた『危険運転致死傷罪』は、道路交通法の中でも重い罪を問うことができますが、それでも罰金刑がほとんどを占め、懲罰刑は稀(まれ)なのです。この事件は、加害者に前科があったことと、社会問題として注目を集めたことにより懲罰刑が実現しました。
追突した大型トラックの運転手にも罪が問われた!?
そしてさらに、この判決には続きがあります。それは本線に止まった車を避(よ)けきれずに、追突事故を起こしてしまったトラックの運転手にも『自動車運転過失致死』という罪がおりたことです。
高速では車を止める際は路肩(ろかた)に移動しなければなりません。今回の事件では、本線にわざと止めたのは加害者です。しかし、明確な定義がされていない道路交通法では、トラック運転手を弁護することはできませんでした。
完全なる巻き込まれですよね。だからこそ、この事件をきっかけに『あおり運転』というものがより社会問題となりました。運転に対する『逮捕・罪の基準』がないことが、この事件で明らかとなったことで、社会の声が法改正へと国を動かしていくことになります。
法改正前の一般的に考えられるあおり運転と逮捕基準とは?

法改正前は『明確な定義がない』ということですが、それでは一般的な『あおり運転』とはどのような行為を指すのか気になりますね。いくつかまとめてみましたのでご覧ください。
- 車間距離をつめる
- 幅を寄せてくる
- 蛇行運転
- クラクションで威嚇(いかく)をしてくる
- 必要のないハイビームやパッシングをしてくる など
具体的に『一般的』に考えられる『あおり運転』の基準を説明していきますね。もしかしたら、自分がされたことがあるかもしれませんし、もしくは自分がしていたかもしれません。当てはまることがなければいいのですが・・・。
車間距離をつめる
一般的に後ろの車がとるべき車間距離は、走行速度から十五メートルを引いた距離が安全と言われています。これは意外にも知らない人は多いのでは?
例えば、走行速度が四十キロなら二十五メートル開ける、ということですね。なお、高速道路の場合は走行速度と同じ距離を開けなければなりません。走行速度が八十キロなら、そのまま車間距離は八十メートル開ける必要があります。
ちなみに、車間距離をつめられて、『あおり運転』されたことによる仕返しとして、急停止してあおった車と事故を起こした場合は、停止した(あおられた被害者)側にも責任が問われる可能性があるのでご注意ください。
幅を寄せてくる
隣の車線で走行している車が、自分の車側へとわざと寄ってきて、運転の邪魔をする行為は、あおり運転となります。こちらは、追い抜かれるときに、わざと距離をつめてくることにも当てはまります。
幅を寄せてくる行為では、例えば自転車で車道を走っている人が、車から幅を寄せられたことによる恐怖心から、意図(いと)せず事故を引き起こしてしまう可能性も秘めています。後ろより横から近づかれると怖いですよね。
蛇行(だこう)運転
蛇のようにくねくねしながら走行する運転のことをいいます。前方後方から特定の車に対する、完全なる嫌がらせですね。
蛇行運転の多くは、飲酒運転や極度の疲れなどによって事故が起きる場合があります。しかしながら、周りの様子を見ながら、明らかいに狙(ねら)って蛇行運転する車については、『あおり運転』の可能性が高いです。
クラクションで威嚇をしてくる
特定の車に対して、正当な理由なくクラクションを鳴らし続けている行為です。自分よりも遅い車への苛立(いらだ)ちから行われることが多いようです。
なお、クラクションを鳴らしても良い状況とは、道路交通法によって定められています。見通しのきかない交差点や道路の曲がり角などでしか鳴らしてはいけません。むやみに鳴らすことは違反なのです。
必要のないハイビームやパッシングをしてくる
後方からわざとハイビームやパッシングをして、前の車の運転の邪魔をする行為です。眩(まぶ)しいですよね。ただ、不注意によりハイビームなどをロービームに切り替え忘れている場合もあるので、注意しましょう。
私の友人の車はかなり車体が低いため、大型トラックなどのロービームでもハイビームにしか見えないそうです。夜間ではかなり眩しいと嘆(なげ)いていました(笑)そう考えるとハイビームの判断は難しいですね。
改正前の逮捕基準とは?
明確に定義していないからこそ、警察も『あおり運転』で検挙や逮捕(たいほ)することが難しいですよね。改正前ではどのような逮捕基準で警察のお世話になるのか、例を挙げていきます。
- 車間距離保持義務違反
- 安全運転義務違反
- 急ブレーキ禁止違反
- 進路変更禁止違反 など
主に四つ挙げられますが、特に『車間距離保持義務違反』によって、あおり運転の取締りを行なってきました。事件を機に取り締まりが強化されたことで、検挙数がかなり増えたそうですよ。
他にも、相手の車を停止させて脅迫や暴行を加えたり、慰謝(いしゃ)料目当てでわざと事故を起こしたりする行為も『あおり運転』となります。それでは、2020年6月の法改正で『一般的』基準が明確に定義されたのかを見ていきましょう!
法改正後のあおり運転の逮捕基準とは?

ついに2020年6月2日に道路交通法の改正が可決し、6月30日に施行とスピード感をもって新たに変わることができました。これにより、明確に定義のなかった『あおり運転』は『妨害運転』と規定されたのです。それでは逮捕基準を確認しましょう!
- 車間距離不保持
- 急ブレーキ
- 割り込み運転
- 幅寄せや蛇行運転
- 危険な車線変更
- 不必要なクラクション
- パッシング
- 最低速度未満での走行
- 違法な駐停車
- 対向車線からの接近
今までの『一般的』に考えられていた基準に加えて、いくつか新しい定義がされていますね。『最低速度未満の走行』には驚くものがありますが、確かに『妨害運転』といえそうです。遅すぎるとイライラする人いますよね・・・。
裁判の判決に関しても懲罰罪が適応されるようになった!
そして、人身事故を起こしても罪がそれほど重くはなかった『罪の基準』も大きく変わりました。
これらの10類型を基準に、交通を妨害させる目的で危険が生じると予測させる行為をした場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金。さらに行政処分として免許取り消し、という重い罪がおりることとなったのです。
さらに、高速道路で『相手車両を停止させる』『衝突(しょうとつ)事故を発生させる』など著(いちじる)しい危険を生じさせた場合、5年以下の懲役または100万円以下の罰金。行政処分としては同じく免許取り消しとなりました。
2019年 常盤道あおり運転暴行事件の裁判が始まる
免許に関しては、人身事故を起こした場合、飲酒運転と同じく免許取り消しとなることが、運転する人にとってはかなり重いのかもしれませんね。
さてそれでは、冒頭でお伝えした2019年常盤(ときわ)道の高速道路で起きた男性の車を無理やり停止させて、暴行や強要をした事件について。いよいよ2020年7月27日にて初の裁判が行われます。
新しい法改正となって、『あおり運転』ではなく『妨害運転』としてどのような判決がおりるのか、注目が集まりそうです。
まとめ
- 2020年6月30日、新しくなった道路交通法が施行された
- 改正のきっかけは、2017年6月の東名高速夫婦死亡事件
- 判決では死傷が出ても、改正前の道路交通法では一般的な死傷よりも重くない罪でしかおりなかった
- この事件により、あおり運転に対する規制を明確に定義化の動きが生まれた
- 改正後は、重い罪と行政処分がおりることとなった
この出来事は社会問題として、たくさんの人たちが法律に対して「おかしい」「変えるべきだ」と声を挙げたことでも有名かもしれません。声を挙げれば変わることのなかったものが、『今』にとって必要なものへと変えられる力を持つことができたのですよ。
ただ一方で、運転をする行為に対して、法で厳しくしないといけなくなった。つまりモラルが低下したことを世の中に広めた出来事でもありました。あおり運転絶対ダメ!とお伝えしましたが、1人1人が最低限のマナーや思いやりがあれば、そもそも起こらなかった出来事です。
厳しすぎる法の裏には、私たちの意識力の低下があることを感じずにはいられません。それでもあおり運転絶対ダメ!は忘れないようにしましょう!
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